思索の断片
設計に、正解はあるのだろうか
設計に、正解はあるのだろうか
旅館の設計をしていると、ときどき考えることがあります。
設計に、正解はあるのだろうか。
建築には、構造や法規、使いやすさ、コストなど、守らなければならない条件があります。
けれど、それらを満たしたからといって、その建物が本当に「いい建物」になるとは限りません。
特に旅館設計では、建物そのものだけを考えていても答えは出てきません。
その土地にはどんな風景があるのか。
そこにはどんな歴史があるのか。
訪れる人に、どんな時間を過ごしてほしいのか。
そして、そこを営むオーナーは、どんな旅館にしたいと思っているのか。
そうした一つひとつを読み取りながら、まだ存在しない空間を考えていきます。

建物だけではなく、その土地の風景や周辺環境を読み取るところから設計が始まります。
土地を見る。人の思いを聞く。
株式会社久和原建築事務所では、全国の温泉旅館・老舗旅館をはじめ、さまざまな宿泊施設の設計に携わってきました。
伊勢の旅館、出雲・玉造温泉、三朝薬師の湯など、地域に根差した旅館との仕事を通じて感じてきたのは、同じ「旅館」という言葉で括っても、必要とされる空間は一つとして同じではないということです。
だからこそ、最初から答えを決めてしまわない。
土地を見て、話を聞いて、考える。
オーナー様との打ち合わせでは、図面に書かれていることだけではなく、これまで大切にしてきたことや、これからどんな宿にしていきたいのかという思いにも耳を傾けます。

図面を囲み、オーナー様や関係者と話しながら、設計の方向を探っていきます。
まだ存在しない空間を思い描く
設計の初期段階では、まだ建物はありません。
頭の中にあるイメージを、線にしてみる。
一枚のスケッチから始まり、平面を考え、光の入り方を考え、素材を選び、人の動きを想像する。
そうして少しずつ、まだ存在しない空間が形になっていきます。

旅館の大宴会場をリノベーションする際に描いた計画初期の設計スケッチ。天井や照明、客席、正面の景色との関係を検討しています。
そして、検討を重ねながら、完成する空間をイメージしていきます。

計画した大宴会場の内観パース。天井の意匠や照明、家具、窓から見える景色との関係を検討しています。
「もてなし」に通じる、暮らしの視点
住宅の設計で培ってきた、暮らしに寄り添う視点。
それは旅館の「もてなし」にも、案外そのまま通じるところがあります。
そこで過ごす人が何を見るのか。
どこで立ち止まるのか。
どんな光を感じるのか。
どのような距離感で人と接するのか。
建物の形や意匠だけではなく、そこで過ごす人の時間まで考える。
それが、私たちが考える旅館設計の一つの姿です。
設計に、唯一の正解があるわけではないのかもしれません。
土地が違えば答えは変わり、オーナーが違えば答えも変わる。
だからこそ、私たちは一つひとつの仕事に向き合い、その場所にしかない答えを探していきたいと思っています。
オーナー様とご一緒できる仕事が、結局のところ、一番いい建物になる。
最近、また改めてそう感じます。
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